イギリスの控訴院は2025年5月13日、女性を殺害した罪で38年近く服役していた男性について、有罪判決を破棄した。DNA鑑定による新たな証拠が決め手となった。
ピーター・サリヴァンPeter Sullivan氏は、1986年に英イングランド西部マージーサイドのバーキンヘッドで、当時21歳だったダイアン・シンドールDiane Sindallさんを殺害した罪で服役していた。しかし昨年、犯行現場で採取され保存されていた精液サンプルから、未知の犯人を示す遺伝子情報が新たに発見されたため、刑事事件再審委員会(CCRC)がサリヴァン氏の事件を控訴審に差し戻した。左:当時の事件記事と左サリヴァン氏、右、被害者シンドールさん。
刑務所からビデオリンクでこの日の裁判に臨んだサリヴァン氏は、釈放が告げられるとすすり泣き、口に手を当てた。現在68歳のサリヴァン氏は、存命の人物としては、イギリスの司法史上最も長く収監されていた冤罪(えんざい)の犠牲者だと考えられている。警察と検察庁(CPS)は、精液サンプルを検査する技術は事件当時には存在しなかったと述べた。逮捕後の収容期間は38年7カ月21日(1万4113日)で、そのうちの約1年間は、リヴァプール裁判所での審理を待つために拘束されていた。
法廷では、シンドールさんの腹部から採取された精液サンプルのDNA鑑定が可能なまでに技術が発達したのは、ごく最近のことだと報告され、また、このサンプルの遺伝子情報は、当時のシンドールさんの婚約者とは一致せず、精液サンプルを採取した法科学調査員による交差汚染の可能性も排除された。
シンドールさんは生花店で働くかたわら、結婚資金をためるためにパートタイムでバーでも仕事をしていた。1986年8月2日午前0時過ぎ、ウィラル市のベビントンにあるウェリントン・パブ Wellington pub in Bebington, Wirral,での勤務を終えて帰宅途中、車の燃料が切れたとみられている。捜査当局は、シンドール氏がバラ・ロード沿いの24時間営業のガソリンスタンドかバス停に向かって歩いていたところを襲われ、路地に引きずり込まれ、頭部を繰り返し殴打されたことが死因となり、その他にもかまれた傷や裂傷などの外傷が確認された。
事件の翌日、シンドールさんの衣服がビッズトン・ヒルで燃えているのが発見され、この火災現場近くの茂みから「ピート」として知られる男性が走り出るのを目撃したという証言を受け、サリヴァン氏が事件の容疑者として浮上した。捜査の過程で、サリヴァン氏は自身の居場所について矛盾する説明をし、「自白」とされる発言もしたと、法廷で明らかにされた。
しかし弁護側は、サリヴァン氏には学習障害があり、「非常に暗示にかかりやすい」性質だと主張し、また、取り調べは、弁護士や適切な付添人が同席しないまま行われていた。初公判では、検察側はシンドールさんの遺体に残されたかみ痕とサリヴァン氏の歯型が一致すると主張していたが、今回の審理では、法医学の専門家が現在、かみ傷の証拠の信頼性について深刻な疑問を呈していることが明らかにされた。
数度の再審請求却下の後、2021年に再び刑事事件再審委員会CCRCに申請を行うと、技術の進歩により、1986年に保存された精液サンプルの検査に価値があると判断された。法廷で弁護団を率いたジェイソン・ピッター氏は、「これより早い段階でサンプルを検査しようとすれば、結果が得られないまま、サンプルを永久に損なう可能性があった」との認識を示した。参照記事 英文記事 英文記事 過去ブログ:2024年10月サウジでフィリピン人への死刑執行 死刑制度と袴田事件:2012年2月最優秀監督賞「BOX 袴田事件 命とは」国際映画祭イラン>再審決定:参考:袴田巌さん無罪確定へ、検察が控訴断念「状況の継続、相当ではない」:、、、袴田巌さん(89)は47年にわたり拘束され、2025年3月無罪となった。