
抗生物質の登場によって、人類は一時は細菌による感染症との戦いに勝利したかに思えた。ところが、細菌たちもやれてばかりではない。過剰に抗生物質が使用されたことで、これに耐性を持つ細菌がますます増えている。こうした薬剤耐性菌(スーパーバグ)の出現は、現代医療が直面する最大の問題の1つだ。薬剤耐性菌は国際宇宙ステーションでも発見されている。
海で暮らす牡蠣は、普段からさまざまな微生物に大量にさらされている。そのおかげで、強力な免疫系を進化させることができた。牡蠣の血液ともいえる体液(ヘモリンパ)には、抗菌作用のあるタンパク質やペプチドが含まれており、彼らはこれで感染から身を守っている。サマー氏らによれば、牡蠣には実際、漢方として呼吸器の感染症や炎症の治療に使われてきた長い歴史があるという。こうした事実が、牡蠣の抗生物質としての有望性を伝えている。

さらにレンサ球菌のバイオフィルム形成を阻害するだけでなく、すでに形成されたバイオフィルムにまで浸透することがわかったのだ。その効果は、レンサ球菌だけでなく、黄色ブドウ球菌や緑膿菌にも有効だったとのこと。それでいて人間の細胞に対する毒性は認められなかったそうだ。更に、既存の抗生物質と組み合わせて使うと、ほんの少量でも殺菌効果を2倍~32倍にアップさせることまで確認されたそうだ。
このように牡蠣のヘモリンパ・タンパク質は、新しい抗生物質として非常に有望だ。バイオフィルムを破壊し、既存の抗生物質の効果を高め、また人間の細胞を攻撃することもない。とは言え、医療の現場で使えるようにするには、動物実験や臨床試験など、まだまだクリアせねばならない関門がある。参照記事