米ニューズウィーク誌によると、中国の富裕層が最も多く移住するのはアメリカで、続いてカナダ、欧州連合、シンガポール、日本、香港の順に人気があるという。なお、ここでいう富裕層は、現金・株式・債券・投資信託など流動性の高い資産(自宅・車・宝石などは含まず)を100万ドル(約1億6000万円)以上所有する人々を指す。
移民向けのコンサルティングなどを提供する国際組織のヘンリー&パートナーズは2024年6月、中国の富裕層の純流出は過去最多の1万5200人(2023年は1万3800人)に上るとする報告書を発表した。中国の政策を嫌う富裕層が母国を抜け出し、海外移住するケースが増えている。東京の高級マンションにも殺到しているほか、移住に利のある世界各地へと向かう富裕層が後を絶たない。ニューヨーク・タイムズ紙は、東京の3億円以上のマンションの主要な購入者は中国人であり、彼らはしばしば現金で支払いを行っていると報じている。
中国政府が国外への資金流出を止めようと躍起になる一方、移住先の国側でも文化的摩擦などの問題が懸念されている。中国政府は富裕層と資金の流出に頭を抱え、資本規制を強化しており、特に大規模な海外投資や不動産購入に対して厳しい監視を行っている。また、個人が1年間に海外に持ち出せる外貨の上限を5万ドル(約800万円)に制限している。だが、歯止めはかからない。
英ガーディアン紙によると2023年の上半期だけで、中国からの資金流出は約195億ドル(約3兆円)に達している。この数字は中国の国際収支データに基づいているが、実際の資金流出額はさらに高い可能性がある。ニューヨーク・タイムズ紙は2023年、毎月約500億ドル(約8兆円)が中国から流出しているとの推計を伝えている。
資金の移動制限を回避するため、中国の富裕層はさまざまな方法を用いている。英フィナンシャル・タイムズ紙は、「地下銀行」の存在を報じている。公式の金融システムを通さずに資金を移動させる非公式な手段であり、こうした影の金融機関を通じた資金の移転は「ミラー・トランスファー」と呼ばれている。この手法では、中国国内の地下銀行に資金を預け、同額を海外の地下銀行から引き出す。ほか、ニューヨーク・タイムズ紙によると、ゴールドバーを購入して持ち出す、香港の銀行口座を開設してそこから保険商品に投資する、海外の高級マンションを購入するなど、あらゆる手法で資金を移動させているという。
富裕層たちが相次いで住み慣れた母国を離れる背景に、習近平国家主席が進める共同富裕政策がある。習氏は2021年から「共同富裕」を掲げている。富の再分配により社会の不平等を是正し、全体的な生活水準を向上させることを目指している。高所得者層や大企業から税金と寄付を集め、低所得者層や地方の発展を支援することが柱だ。