2022年4月2日:ウクライナの原子力発電公社エネルゴアトム Ukraine's state nuclear company Energoatomは3月31日、ロシア軍が占拠していた北部チョルノービリ(Chernobyl:ロシア語ではチェルノブイリ)原子力発電所から撤退したとの報告を受けたと発表した。エネルゴアトムによると、現在はチョルノービリ原発の敷地内に「部外者」はいないと、同原発のスタッフが話し、この発表に先立ち、同社はロシア軍が一部の集団を残してベラルーシ国境に向けて移動したと述べていた。28日には、原発作業員が多く住むスラヴチチの市長が、街からロシア軍が撤退したと発表した。ロシア軍はウクライナ侵攻を開始した2月24日にはチョルノービリ原発を占拠していた。1986年に世界最悪の原発事故が起きたチョルノービリ原発はすでに停止中だが、完全に放棄されたわけではなく、今も監視保安作業を常に必要としている。使用済み核燃料も、敷地内で冷却されている。
エネルゴアトムは31日の声明で、「今朝、侵略者たちはチョルノービリ原子力発電所から撤退する意向を表明した」と説明した。また、ロシア部隊がチョルノービリ原発の立ち入り禁止区域内の最も汚染されている場所で塹壕(ざんごう)を掘り、「かなりの線量」
の放射線 "significant doses" of radiation.を浴びたとする報告についても認めた。ベラルーシで治療を受けている人もいるという未確認情報もある。
ロイター通信は原発作業員の話として、ロシア兵の中には自分たちが放射線量が高い場所にいることを知らない者もいたと伝えた。一方でロシア軍は、原発を占拠した後、原発での放射線量は正常範囲内に収まっていると主張していた。国際原子力機関(IAEA)は声明で、これらの情報が事実かどうか確認できていないと述べた。
北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ(Jens Stoltenberg)事務総長は3月31日、ロシア政府は軍を撤退させるのではなく、ドンバス地方での作戦に向けて部隊を再編し、再補給し、攻撃を強化するために軍を再配置していると指摘した。「同時に、ロシアはキーウ(Kyiv)やほかの都市への圧力を維持している。そのため、さらなる攻撃が予想される。さらに多くの苦しみをもたらすことになる」と、軍事的成果を追求するロシアの目的に変化はないと、ストルテンベルグ氏は付け加えた。参照記事 英文記事 英文記事 Russians leave Chernobyl site as fighting rages elsewhere
イギリスのベン・ウォレス国防相も、ストルテンベルグ氏の見解に沿う警告を発し、一方、イギリス当局は、ロシアがジョージアから1200~2000人規模の駐留部隊を、補強のためウクライナに派遣しているとした。 英国防省は、「ロシアがこのような方法で増強を計画していた可能性はきわめて低く、この侵攻中に想定外の損失を受け続けていることの表れだ」とツイートした。
アメリカの国防当局者は、キーウ周辺のロシア軍の約2割が再配置の動きを見せ始めたとの見方を明らかにした。
この当局者は、ロシア軍がキーウ郊外のホストメリ空港をほぼ放棄したと説明。チョルノービリ原発からも撤退しているとした。
ロシア軍は、地上でいくぶん部隊を分散させているが、上空では圧力をかけ続けている。キーウや北部チェルニヒウ(Chernigiv:Chernihiv)で空爆を継続している。ウクライナ空軍は31日夜、西側諸国に追加支援を求めた。兵器が旧型のため、ロシア軍に対抗できないとし、新型戦闘機F-15やF-16、アメリカのパトリオットミサイルや、ノルウェーのNASAMSミサイルの提供を呼びかけた。
ウクライナ空軍はツイッターで、「真実、空での優位性がこの戦争を決する要因であり、第2次世界大戦後のすべての戦争で鍵を握ってきた」とした。過去ブログ:2022年2月戦争3日目のウクライナの戦況と市民 Russia-Ukraine war