d266b7c8-sエリザベス女王工学賞財団は2022年2月1日(現地時間)、「日本の佐川眞人博士(Sagawa Masato:79)がネオジム-鉄-ボロン(Nd-Fe-B:Nd2Fe14B)永久磁石の粉末焼結製法を開発した功労で、今年の「工学界のノーベル賞」と呼ばれる「エリザベス女王工学賞:Queen Elizabeth Prize for Engineering、別称:QEPrize」の受賞者に選定した」と明らかにした。
これまで、世界の人工的な磁石材料の発明とその後の発展には、日本の研究者の寄与が大きく、東北大の本多光太郎氏のKS鋼の発明は、東工大の加藤與五郎、武井武両先生のフェライト磁石、そして、佐川真人博士のNeFeB焼結磁石等の発明につながった。

エリザベス女王工学賞は、工学分野のノーベル賞を作るという趣旨で、2012年にエリザベス女王即位60周年を記念して制定された。隔年制で受賞者を発表してきたが、今年から毎年受賞者を選定することにした。佐川博士は賞牌と賞金50万ポンド(約7800万円)などをもらう。すでにこれまで、デジタルカメラの撮像デバイスの主流となっている埋込フォトダイオード(Pinned Photodiode)を発明した寺西信一さんが2017年に受賞、、2021年に、実用的な高輝度青色発光ダイオードを開発した赤崎勇さん、中村修二さんが受賞し、佐川氏で4人目となる。工学賞審査委員長のジョン・ブラウン卿は「今回の革新技術はポケットの中の携帯電話から海岸の風力発電機に至るまで様々な場所で利用されている」とし「佐川博士の永久磁石は絶えず人類のために寄与する工学の精髄を具現した」と評価した。

external-content.duckduckgo.comネオジム磁石は携帯電話やコンピューター、自動車、風力タービンなど現代文明のいたるところで多様に使われ、自動車で窓の洗浄液2e0de9b3-sを噴射するポンプのモーターからABS(ロック防止制動装置)ブレーキまで至る所に入っている。病院の磁気共鳴画像(MRI)装置やスピーカー、ヘッドホンにも使われ、ネオジム磁石は個人用コンピューター(PC)時代の幕開けにも決定的な役割を果たした。軽くて小さいハードディスクは限られた空間に強力な磁場を伝達するのが核心技術で、携帯電話や電動道具、宝石の開閉装置まで日常的にネオジム磁石を探すことができる。
imageswind-power2特に最近は風力発電機や電気自動車、超電導リニアなど、エコエネルギー技術の具現にも中核的な材料として使われている。エリザベス工学賞財団は、全世界850万台以上の電気自動車、ハイブリッド自動車にネオジム永久磁石が入っていると発表した。工学賞財団は、ネオジム磁石の市場が2026年までに193億ドル(約2兆2千億円)に達する見通しだと明らかにした。

佐川博士は「エリザベス工学賞は、工学の目的が人類に恩恵を与えることだと明らかにした」とし「工学者の一人として人類の当面の課題である気候変動との戦争にも寄与し、その功労でこの賞まで受賞できて光栄だ」と述べた。彼は2012年に同じ功労で日本国際賞を受賞した。
20220202_05_1075110_L東北大学工学博士出身の佐川博士は、住友金属に在職していた1983年、米国で開かれた国際学会で初めてネオジム永久磁石の焼結工程を発表した。当時サマリウム-コバルト合金が最も強力な永久磁石であったが、二つの物質とも高価で普及が難しかった。佐川博士は、安価な鉄基盤の永久磁石を作れば、応用分野が拡大すると考えた。映像:京都特別講演「世界最強ネオジム磁石、誕生秘話」
彼は鉄にレアアースの中で3番目に資源量の多いネオジムを加えて新しい永久磁石を実現した。最後に、ボロンは磁性が維持される限界温度を高めた。これを通じて、自動車のエンジンのように高温で作動するところにも使えるようになった。米国の科学者も同時期にネオジム永久磁石を開発したが、佐川博士は生産工程まで開発して単独受賞者に決まったと工学賞財団は明らかにした。
佐川博士は住友金属を出てインターメタリックスという会社を設立し、ネオジム磁石の改良を続け、1990年代、高温で磁石の性能が急減する問題をディスプロシウム(ジスプロシウム:dysprosium・希土類元素(レア・アース)の一つ、元素記号 Dy ほとんどが中国で産出)を加えて解決した。2012年にはNDFEB株式会社を設立した。最近はディスプロシウムなしで磁石の性能を維持する研究をしている。参照記事 英文記事 参考:世界最強「ネオジム磁石はこうして見つけた」(佐川眞人 氏 / インターメタリックス株式会社 代表取締役社長) 

現在、すでに一般に出まわっている上記のネオジム磁石( Neodymium magnet: NdFeB magnet)の組成は、ネオジム・鉄・ボロン(ホウ素)である。ネオジムとボロンはレアメタルだ。ネオジム・鉄・ボロン磁石が発明されたのは1983年。それから現在まで、ネオジム・鉄・ボロン磁石はつねに磁石の王者であり、その性能を上回る磁石が今後あらわれるかどうかすら誰にもわからなかった。

Hono2014年 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の宝野和博(ほうの かずひろ)フェローのグループは、新しい組成の磁石になる可能性のある化合物NdFe12Nxの合成に成功した。参照記事 それは、ボロンのかわりに窒素を含む、「ネオジム・鉄・窒素」磁石である。鉄と窒素というありふれた元素が組成の大半であり、ネオジムの使用量も従来のネオジム・鉄・ボロン磁石より少ない。さらに、その化合物の性能を測定したところ、ネオジム・鉄・ボロン磁石化合物よりも優れていた。ただし今のところ、320ナノメートルというごく薄い膜での合成である。磁石にするにはまずはネオジム・鉄・窒素の粉をつくらなければならないが、それはまだ先のようだと、2014年の記事より。

external-content.duckduckgo.comまた、2019年10月には、産業技術総合研究所(産総研)はTDKと共同で、重希土類元素を使わずに、室温での保磁力が30kOeを超えるサマリウム-鉄-窒素(Sm₂Fe17N₃)系磁石粉末を作製できる技術を開発したと報道された。耐熱性に優れ、今後、ハイブリッド自動車用駆動モーターなどの高温環境下においてネオジム-鉄-ホウ素(Nd-Fe-B)磁石を超える磁石の実現が期待される。この技術開発は2011年7月に公表されていたもので、重希土類(重レアアース)元素である*ジスプロシウム(Dy)を含まない磁石の商品化に目途がついたようで、更に性能向上の開発がされている。これもまた世界的な快挙だ。 参照記事 参照記事 参考:2021年2月:低炭素化時代に向けた磁性材料と磁気応用 2019年10月重希土類フリーの高耐熱希土類磁石粉末の合成法を開発

*自動車駆動用モーターにはモーター内部の温度が200 ºC程度まで上昇するため、高い残留磁化とともに高い耐熱性が求められる。現在、自動車用IPMモーターにはNd-Fe-B磁石が用いられているが、Nd-Fe-B磁石はこのような高温では保磁力が激減してしまうので、ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった重希土類元素を添加して保磁力を向上させ、保磁力の温度劣化を抑制することで耐熱性を確保している。しかし、これらの重希土類元素は地殻埋蔵量が少ないうえ、産出地域も限られており、価格や供給が不安定である。そのため、これらの重希土類元素を使わない耐熱性高性能磁石が求められている。



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