
2022年1月27日:1月20日深夜、「イスラム国:IS」の組織は数百人の仲間を解放するために、米国が支援するクルド民兵・シリア民主軍(SDF)が運営するアル・シナア刑務所 al-Sinaa prison(地名からGhwayran prison、
Gweiran Prisonの表記もある)を攻撃し、アル・ハサカ市の南部southern part of al-Hasakah city in Syriaにある刑務所とその周辺地域を占領している。攻撃したISの勢力は不明だが、数百人規模とみられている。すでに6日間、IS武装勢力と米国など西側同盟国が支援するSDFとの激しい衝突が続いている。
記録映像(一部ISが刑務所内で刑務兵員を襲撃の映像含む) 記録映像 27日付映像記事
24日朝、クルド側はISに降伏を求める最後通告を出したが、テロリストが拒否した後、SDFは刑務所への最終攻撃を試みた。米軍寄りのメディアが流したSDF優勢の主張とは裏腹に、SDFの反撃は失敗した。奪取したのはビル1棟のみで、近隣の民間人居住区は依然としてISの支配下に留まっている。アル・ハサカには、米空軍と英空軍を含む重火器と戦闘機を備えた米軍主導の連合軍部隊も配備されている。しかし、これだけでは過激派を制圧することはできなかった。
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SDFは25日、さらに250人のISメンバーの投降を発表し、総勢550人となった(筆者:ISへの帰属を拒んだ囚人)。一方、死者数は双方で約200人に上った。難民の総数は4万5千人を超えている
。1月20日のISによる刑務所への自爆及び自動車による爆弾攻撃が開始された時点で、刑務所には約3500人のISに関わる囚人が居たとされる。 写真右は投降した囚人ら。 この最大の刑務所には、12歳ほどの子供らを含む約850人の未成年も収容されていたとされ、15~20人は、逃げ出そう(クルド側に投降)としてISに殺害されたとの報告もある。
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残存するISの過激派はいかなる降伏も拒否し、人質の解放と引き換えに、シリア砂漠への安全な回廊(避難経路)を要求している。
武装勢力は、水、食料、医薬品の不足に苦しんでおり、SDFは、数人の人質を食料と交換することに成功したと伝えられている。写真左は、クルド側が制圧した刑務所施設の一つの様だ。激しい攻防の跡が確認できる。
映像突破口を開くため、あるいはクルド側から新たな武器、物資、医薬品を得るために、ISの武装勢力は25日夜、刑務所からほど近いガソリンスタンドを攻撃した。この衝突で、少なくとも5人のSDF兵士が死亡したと伝えられている。
現地26日報道では、状況は1週間前から緊迫したままである。SDFと米軍連合は新たな増援を配備し、再攻撃に備えているようだ。
クルド側は、これまでにシリアの砂漠に逃亡し潜んでいるIS過激派の人数をまだ公表していないが、テロリストの脅威は着実に増している。
1月23日、MiG-29戦闘機1機とMi-8ヘリコプター3機が、パルミラ〜アブケマル、パルミラ〜デイルエゾル道路のパトロールのため、T-4空軍基地に配備された。1月24日、ISはパルミラPalymiraの町付近でシリア軍・SAA第4軍団の軍事隊列を攻撃した。8人の兵士が死亡し、16人が負傷した。一方、アサド政権支援のロシア航空宇宙軍(VKS)は、ホムス砂漠に兵力を移送している。1月25日、ロシアの戦闘機は、シリアのヘリコプターの支援を受け、シリアの砂漠にあるISの拠点に対して40回の空爆を実施した。

最近のISの行動は、このテロ組織を軽視するのが時期尚早であることを証明した。この地域の悲惨な社会経済状況は、テロリストがスンニ派の若者の間で効果的に勧誘キャンペーンを行うことを可能にしている。ヨーロッパで武力紛争が発生し、ロシア連邦と西側諸国の連合軍がこの地域から遠ざかることが避けられない場合、ISの脅威は著しく増大するだろう。シリアは、自国だけの手段で効果的に過激派に対抗することができない。また、シリア北部クルド・SDFには、その戦闘能力に限界があることを改めて確認された。
「戦術的なレベルでは、これはアングロサクソン圏(西側)、トルコ、イスラエルに利益をもたらす。アルシナア刑務所での衝突とパルミラ地区での攻撃は、
シリアにおける内戦の新ラウンドの始まりである。」、、「 」の英文元記事の意味がはっきりしないが、ISの残党をシリア全土で徹底的に殲滅する流れが周辺国にプラスと言う事か?
翻訳元記事に加筆編集
2022年1月31日:クルドYPGが公開した刑務所での映像では、1月31日、完全にIS側の敗北の終わり、クルド人のシリア民主軍(SDF)が10日間の戦闘の末、やっと鎮圧した。戦闘には米軍も参戦、3年前のIS壊滅以来最大の戦闘で、同グループのリーダーであるアブ・ムハンマド・アル・ウルドゥニthe group's leader Abu Muhammad al-Urduniを含む死者は500人を超えた。映像では、最後のイスラム国戦闘員が投降する様子が映し出されている。
記録映像
襲撃された刑務所にはISの戦闘員ら3500人がSDFの管理の下で収容されていた。うち約700人は外国人の戦闘員がISに合流した際、一緒に伴ってきた少年たちで、今は12歳から17歳に成長している。戦闘員の妻や娘たち約6万人は刑務所から約60キロメートル離れた「アルホル収容所(アルホル・難民キャンプ:
Al-Hol (Al-Hawl)Refugee Camp)」で生活している。過去ブログ:2022年1月
息子らをIS戦士に参加させたスウェーデン女性を起訴
鎮圧に10日間もかかった要因の一つはISが攻撃を回避しようと、少年らを〝人間の盾〟として人質にしたためだ。SDF側の攻撃の矛先が鈍り、時間がかかったようだ。だが、最後は総攻撃に踏み切り、一部少年らも犠牲になった。
SDFの発表によると、死者はIS側374人、SDF側40人。この他、刑務所の職員77人、市民4人が死亡した。少年2人が遺体で見つかったが、がれきの下にはまだ犠牲者が残っているもよう。囚人200人が脱走したとされ、囚人とともに脱走したIS少年らもいる。襲撃者らの証言によると、刑務所襲撃はより大きな攻撃計画の一環だったという。刑務所襲撃で囚人らを解放した後、ハサカから約200キロメートル離れたISの元の首都ラッカRaqqa:Ar Raqqahや、「アルホル収容所」を攻撃する計画だった。収容所で暮らす妻や娘を奪還する狙いがあったとみられる。この刑務所襲撃にタイミングを合わせるように、イラクでも兵舎が襲われ、兵士11人が死亡した。
ISの絶頂期には世界中から3万人を超える戦闘員が家族連れでラッカに集まり、参戦した。米国はじめIS掃討に参加した各国はISの力を見直す必要があるのではないか。言えることはシリアやイラク、アフガニスタンのような不安定な地域にISの過激思想がはびこり続けるということだろう。もう一つ看過できない問題は各国がISの外国人囚人約5000人の送還受け入れを拒否、SDFにISの後始末を押し付けていることだ。その結果、SDFはこれら外国人を含む1万2000人の戦闘員を囚人として刑務所などに抱えているのが現実だ。中東専門誌によると、送還されるのを拒んでいるのは50カ国にも上る。
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