

ブータン西部に接する国境沿いの数カ所での建設関連活動は、2020年初頭から進められている。ホークアイ360で担当ディレクターを務めるクリス・ビガーズ氏によれば、衛星画像を専門とするカペラスペースとプラネットラブス両社が提供する資料を元に判断すれば、中国は当初、道路を建設し、造成作業を進めていたという。
衛星画像からは、2021年に作業が加速したことが分かる。ビガーズ氏は、恐らく住宅用の設備や資材と思われる小規模な構造物が設置されたのに続き、建物の基礎が作られ、建物本体の建設が始まったと話すビガーズ氏は、「私が見たところでは、2021年は建設加速の時期だった」と言う。:右図が建物群。一見して、兵舎か労務者宿舎に見える。
別の専門家2人は、新たな建設現場の位置やカペラスペースの撮影した最近の衛星画像を検証し、6カ所の入植地は、領有権が争われている地域約110平方キロを含め、すべて中国・ブータン間の国境係争地域(係争地)に建設されているとみられると指摘する。資源は乏しく、元から暮らしている住民もほとんどいない。ブータン外務省はロイターからの問い合わせに対して、「国境問題については公に語らないのがブータンの方針である」と回答した。同国外務省はこれ以上のコメントは控えるとしている。参照記事:ブータンを挟んで対峙する中国とインド
2人の専門家とインド国防関係者1人は、こうした建設事業は、中国が自国の主張に具体的な形を持たせることで国境問題を解決しようと決意していることを示唆している、と話す。
中国とブータンは、1984年以降24回にわたって国境画定に関する交渉を実施。「中国が、ブータンが主張する国境を越えて村を建設していることは、37年間で24回を数える国境交渉において、ブータンを中国側の要求に屈服させることを意図したものだと思われる」。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のチベット地域専門家で、中国・ブータン国境問題に注目してきたロバート・バーネットRobert Barnett専門研究員は、こう分析した。
2021年10月14日に締結された覚書の詳細は、3段階の行程を定めたという以外明らかにされていないが、両国国境は約500キロで、中国は全体が未画定と主張している。過去ブログ:2020年7月見境なく他国の領土を紛争地化する中国の横暴と米中対立の先鋭化
インド側には、中国が交渉を通じ、中印ブータンの3カ国国境地帯の軍事的要衝をブータンから獲得し、インド領に肉薄しようと意図している可能性があると警戒する意見が在る。、、中国の動きを見る限り、ブータンとの交渉の目的は、既成事実構築のための、したたかな時間稼ぎと筆者には思える。この地域には、インドやバングラデシュに重要な河川が多く、また自然保護が言われる中、中国のこの地域への進出は別な大きな問題を含んでいる。 参考:ブータン、国境画定目指し中国と覚書 インドは接近に神経とがらす
中国外務省は、「(建設事業は)現地住民の就労・生活条件改善に向けたものだ」とした上で、「自国領域内で通常の建設事業を行うことは、中国の主権の範囲内である」と述べた。それ以上のコメントについては控えるとしている。参照記事