プーチン大統領はウクライナとの国境地帯に10万人規模の兵力や装備を集結させてNATOとの間で新しい安全保障条約の締結を要求、さらに米国が盟主の北大西洋条約機構(NATO)の弱体化を図る東へのNATO拡大停止要求を突きつけ、具体的には、旧ソ連諸国=東欧13ヶ国(チェコ、ハンガリー、ポーランド、ブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、アルバニア、クロアチア、モンテネグロ)でNATOが軍事活動を一切行わないことやウクライナを加盟国に加えないことなどを法的拘束力もつ条約で保証することを求めている(右図の青と緑の各国)。(ロシアはジョージアのNATO加盟にも反対している)その他、ロシアの安全保障として、ポーランドやバルト三国など旧共産圏に展開中のNATO部隊の撤収、欧州に配備した米国の核兵器の撤去を要求し、米国、NATOにそれぞれ条約、合意文書を結ぶように求めている。
プーチン大統領は2021年12月23日、年末恒例の記者会見で「ボールはNATO側にある。即座に(ロシアの安全を)保証せねばならない」と迫り、ロシアのウクライナ侵攻が懸念される中、緊張緩和とロシアとの衝突を避けたい米・NATO側は主導権を奪われる形で外交交渉に臨まざるを得ない状況に追い込まれた。NATOは東西冷戦後の1997年、敵対関係を終わらせる基本文書に署名。東欧に恒久的な大規模戦力を追加配備しないとした。その後、東方に加盟国を拡大。2014年のロシアによるウクライナ・クリミアの併合後にはポーランドなど東欧に部隊を常駐させ、ロシアが反発していた。プーチン氏は会見でNATOがロシアを「だました」と、歴史的経緯を持ち出して一方的に非難した。
ウクライナ問題におけるバイデン政権は、NATOの決定に何の権限ももたないロシアの要求リストに従い安全保障協定を話し合うことに同意したため、東欧の加盟国は「外交的にバイデンがプーチンに譲歩した」と見なし、表面的に鋭い言葉で経済制裁を振り回してみてもバイデン大統領が選択した答えは法外な要求を突きつけたプーチン大統領との「対決」ではなく「宥和」であり、NATOや東欧諸国の期待には遠いものと言われている。参照記事
ロシアの要求は、東に拡大してモスクワに近づきすぎたNATOにロールバックを要求してロシアとの間に緩衝地帯を設けることを意味しているが、現状でNATOの決定事項に何の干渉権も持たないロシアの要求を受け入れることは到底不可能で、欧米メディアはプーチン大統領の提示した要求リストについて「大部分が非現実的だ」と見ている。このような反応にロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣は「もし要求が受け入れられなければ軍事的手段によって対応する」と述べ、更にNATOに対する圧力を強化した。果たしてロシアの強行姿勢はどこまでが本気でどこまでがハッタリなのか不明だが、既に
NATOのトルテンベルグ事務総長、米国のバイデン大統領、英国のウォレス国防相が「ロシアによるウクライナ侵攻が発生しても非加盟国の防衛に軍は派遣しない」と述べているため、プーチン大統領の強行姿勢を転換させるには外交手段しか残されていないのだが、この作業をさらに難しくさせているのはロシアの要求リストに含まれているNATOに加盟した旧ソ連諸国の反発だ。
EU加盟国ポーランドとリトアニア、加盟希望のウクライナ3国は、「ロシアが要求した最後通牒に等しい脅しに屈しない」と訴えており、加盟国リトアニアのナウセダ大統領は「一方的にレッドラインを設定するロシアのやり方は21世紀の欧州では通用しない」と主張して注目を集めている。結局、外交交渉を行うにしてもロシアの要求リストに含まれている旧ソ連諸国の反発を考慮するとロシアに譲歩できる余地が殆ど無いので「外交交渉による問題解決も困難だ」というのが現実で、「米国やNATOが到底受け入れない」という前提で設計された要求リストに対し、米上院外交委員会のジム・リッシュ議員が「ロシアの要求は受け入れ困難なことが分かった上でのもので、明らかに戦争の口実作りだ」と述べているのが興味深い。 参照記事 参照記事、、、欧米はこれまでロシアへ多くの軍事、経済に関する制裁や禁止を課しているが、ロシアは暗に、時間のかかる安全保障の前に、今が攻め時と見て、これらの部分的解除を求めているのではないかと、個人的に想像している。中国との問題が大きい米国としては、今の時期に新たな軍事対決は避けたいはずだ。また、欧州には価格が高騰する天然ガスの輸入をロシアに大きく依存している弱点もある。過去ブログ:2021年12月ロシア、ベラルーシの軍事演習に向けリトアニアが兵器強化 12月ウクライナ問題で絡み合う各国の思惑と過去の提案とは? 12月欧州の不安招くロシア産ガスの供給不安定?と価格高騰

