20201年1月19日:フィンランド国立訓練防衛協会(Maanpuolustuskoulutusyhdistys MKP)が韓国製のAKMライフルを調達することを発表した。早ければ2021年6月に受け渡される。
MKPが調達するのは韓国のDasanMachineries(ダサン・マシーナリィ)が製造するAKM。工場はソウルの南約200kmに位置している。ダサンは自動車部品を中心に製造するメーカーだが、1996年より、主に警察などが使用するための銃としてAKMのレプリカ「DAK47」の製造を行っている。AKMは1959年からソ連で生産が開始さたカラシニコフAK-47のバリアントであり改良型だが、見た目や性能はAK-47とほぼ変わらない。多くの国にライセンス提供され、生産された。参照記事 英語記事 フィン語記事
MKPは15歳以上のすべてのフィンランド居住者に安全とセキュリティの訓練を提供し、18歳以上のすべてのフィンランド市民に補足的な軍事訓練を提供する組織でいわゆるフィンランド国防軍の予備役なような組織。長年、隣国ソ連・ロシアの侵略という脅威にさらされてきたフィンランド国民は国防の意識が高いとされている。MKPには徴兵経験のある予備役以外の男女とも参加でき、軍事だけでなく、救護技術などの教育も行い、有事の際には非軍事的役割で参加できる。EU加盟国で、NATO非加盟で徴兵制があり、有事は28万人の動員体制。フィンランドは人口550万人、日本との人口比は1:23だから、有事兵力28万人は日本で言えば644万人に匹敵する。18歳の最初の訓練は9か月ほどで割と柔らかい。その後随時、予備役兵訓練がありいわば地域の大運動会。地域住民の一体性と連帯感保持の仕掛けともなっている。
NATOには入らないが、2014年のクリミア、ウクライナ事変後は対ロシア危機感が高まり、EU、米軍との相互運用性を強化する為共同演習に参加し、空軍は多数のF/A-18を運用。2019年はとうとうレッドフラッグ・アラスカに参加した。一朝有事の際、欧州で米軍と最も上手に連携できるのはフィンランド空軍かもしれない。
さらに2020年、インテリジェンス法を成立させた。これは国家安全保障上の必要があれば、ロシアから欧州へのデータ通信ケーブル(フィンランドを経由する。)を含め、通信の傍受・介入を公に認めるもので、ロシアに対し「つけこむな。我らに隙はない。」というフィンランドからロシアへの強烈なメッセージだった。
ロシア依存から脱却する国策で、具体的にはロシアからの輸入に頼る石油・天然ガスへの依存を減らす。そのため再生利用可能エネルギーの比率を2030年までに50%に上げる。単に環境を守りましょうだけではない。次世代型最先端の木材加工工場は、周辺地域の熱源までまかなうエネルギーを生産できる。電源は原子力を着実に拡充。使用済み核燃料の最終処分場オンカロも建設中で、世界初の運用が数年内に見込まれる。反原発30~40%という世論調査の数字が出ることはあるが、ロシアへのエネルギー依存を減らす大目的には政治的コンセンサスがあるので、スウェーデンと違い原発の是非が政策上の争点になることはない。
MKPは予備役という事もあり、安価な銃を探していたのと、正規軍のフィンランド国防軍の主力小銃の一つであるRK62 (フィンランド製突撃ライフル62:Finnish rynnäkkökivääri 62, 'assault rifle 62':写真左下)と親和性がある銃を探していた。RK62はロシアのAK-47の基本構造を踏襲した銃でAK-47、AKMと同じ7.62×39弾を使用する。AKMはコスト、使い勝手、兵站(銃弾補充)の意味でも都合がよいのだ。DKM47は1960年代のAKMと全く同じではなく、ピカティニーレール(Picatinny rail 照準器などを設置する架台:左上写真で赤い矢印)を搭載し、伸縮式のストック(銃床 Stock:右上写真青い矢印)を採用するなど近代化されている。また、今回の調達にあたり視線を国防軍正規銃のRK 62に適応させるために、ハウジングカバーのリアサイトを再配置(左上の写真で黄色い矢印部分)している。
このようなフィンランドと日本の防衛交流は最近急速な進展を見ている。2018年は春に小野寺防衛大臣が来訪、大統領を表敬し国防大臣と会談した。同年8月に海上自衛隊の練習艦かしまと護衛艦まきなみがヘルシンキに入港。フィンランド海軍とのPASSEX(演習)も行った。2017年、中国艦艇がザーパド2017に参加の途次(とじ)ヘルシンキに寄港したが、中国側からの共同訓練の要請をフィンランドは拒否し、船の公開にも制約を課した経緯がある。日中の迎えられ方には明らかな段差があった。
2019年2月、ニーニスト国防大臣が来日し、岩屋防衛大臣との間で防衛交流・防衛協力覚書に署名した。フィンランドとしては10番目、アジアとは初の覚書になる。フィンランドは汎用品・汎用技術に強みがあり、防衛装備協力への自然な流れができつつある。
日本企業も着目し、ここ6~7年来、特徴的な進出が相次ぎ、空ではフィンエアーが東アジアを重視し、A350を投入中。日本にも冬季を除きJALと併せ毎週4都市41便の直航便が開始され、ヘルシンキを通じ広くヨーロッパ各国から人の流れを吸引して、効率的な訪日観光推進の上で貴重な航空路(2019年12月、ヘルシンキ~千歳直行便就航)になる。加えてA350のカーゴスペースが太く安定的なエアカーゴ物流ルートを形成していることに要注目。(日本が各国との)EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)の使い方を考える上でも、旅客機のエアカーゴをどう活用するかは大切なポイントである。フィンエアーは中国7都市にも週42便を飛ばし続々A350を投入中で、貨客一体戦略は明らか。物流ルートの戦略的な設定という観点で、フィンランドは一帯一路の積極的な側面を良く理解、上手に利用している。貿易や投資受け入れに際しても、かつてNOKIAが中国で痛い目にあった経験を忘れず、無用な技術流出の防止など今のところは脇を締めている。参照記事 参照記事 フィンランド航空利用者が持つべきクレジット 過去ブログ:2020年6月三菱電機がフィンランドのTCMS製造EK社の株式取得 5月ノルウェー、デンマーク、日本、フィンランド共同で自動走行試験 4月関電がフィンランドの陸上風力発電に持ち株参入 1月村田製作所のフィンランドの生産工場始動 2019年2月フィンランド防衛大臣訪日とフィンランドの国内問題 1月中国国際定期貨物列車「中欧班列」2019年第1便とフィンランド 1月追記:フィンエアー ヘルシンキが欧州のハブに?>千歳就航決定 2018年1月トヨタを頭に結束するEV日の丸連盟とフィンランドのWhim 2014年3月バルト海、黒海周辺を苛立たせるロシア 参考:スマホで敗れた「ノキア」が再び復活できた理由