研究チームはラパシエガ洞窟La Pasiega caveなど3カ所( La Pasiega in north-eastern Spain, Maltravieso in western Spain ,Ardales in southern Spain)で動物や手形などの線描の部分に含まれる天然の放射性物質をウラン・トリウム法と呼ばれる高精度な年代測定法で調べ、三つとも6万4800年以上前に描かれたものだと判明した。現在、現生人類が欧州に現れたのは約4万5000年前のこととされている。アフリカでは、現生人類と関係していると思われる7万年前にさかのぼる原始的な象徴的遺物が発見されている。
ラパシエガ洞窟の壁画には線を組み合わせたはしごのような図形もあり、抽象的な考えを具体的な形で表す「象徴表現」の可能性がある:写真最上段2枚。
年代的にネアンデルタールの壁画とする議論には、果たしてそれほど太古のネアンデルタール人に芸術的センスが合ったのかと問う意見もある。これを裏付ける発見として、スペイン南東部、 Cartagenaに近いクエバ・デ・ロス・アビオネス洞窟 Cueva de los Aviones caveから見つかった貝殻ビーズと顔料が、11万5000年以上前の最古のアート作品である事から、太古のネアンデルタールには美的センスが在ったと指摘する学者もいる。スペイン、バルセロナ大学の考古学者であるジョアン・シルホン氏は言う。「アフリカ大陸で似たようなものが制作されたのは2万~4万年後です。これらはネアンデルタール人が作ったものなのです」 と語り、従来、ネアンデルタール人には粗野で頭が鈍いイメージがあったが、実はホモ・サピエンスと同等の認知能力をもっていたと、研究チームは主張する。英文記事 参照記事
人類の進化に詳しい佐野勝宏・早稲田大准教授は「象徴表現は現生人類のみが生まれつき持つ固有の認知能力という考えが多数派だった。今回の年代が正しければ、ネアンデルタール人にもこの能力があったことになる」と指摘している。
(中段左2枚は、人の手形が残るMaltravieso cave in Caceres, Spainのもの。右下はArdales cave in southern Spainに残る赤い絵の具が塗られた跡)
30万~20万年前にアフリカに誕生した現生人類が欧州にやってきたのは4万~4万5千年前とされ、1万数千年前のアルタミラ洞窟( Altamira cave、スペイン)や約2万年前のラスコー洞窟(Lascaux caveフランス)などの洞窟壁画はすべて現生人類が描いたとされる。
これまで4万年前に描かれたスペイン北部のエルカスティーヨ洞窟(El Castillo cave)の壁画:左 が、現生人類、或いはネアンデルタール人による最古の壁画とされてきたが、今回さらに2万年以上さかのぼる古い洞窟壁画が確認されたことで、研究チームが「すでにいたネアンデルタール人が描いた洞窟壁画だ」とし、初めてネアンデルタール人の洞窟での描画能力が確認された事になる。ネアンデルタール人は現生人類に近い種で、約40万年前に出現し、4万年~2万数千年前に絶滅したが、交配で人類の祖先である現生人類にも遺伝子を残したと確認されている。その結果、ネアンデルタールの痕跡は我々人類にもわづかだが残っていて、特に日本人に顕著だという研究結果があるから不思議だ。参照記事 過去ブログ:2017年6月現生人類の出現は10万年さかのぼり30万年前か? モロッコ 2015年10月現生人類は欧州より早く中国大陸で出現したのか? 2012年2月世界最古4万2千年前の洞窟壁画>約2万年前に訂正 スペイン 2011年7月悲しきネアンデルタール