
以下は、これに先立って掲載された2015年12月21日 週刊現代の記事の、大野和基(国際ジャーナリスト)氏による教授へのインタビューからの抜粋
、、先ほども述べたように、失速する中国経済はどうなるのか。さらに、揺れる欧州経済に再生の道はありえるのか、リセッション(景気後退)寸前に陥っている日 本は立ち直れるか。問題は山積みです。これらをうまく乗りきらなければ、2016年は大変厳しい年になってしまうでしょう。ヨーロッパ経済は、相変わらずひどい状況と言わざるをえません。
たとえばギリシャ。大恐慌よりも深刻な状態で、回復の希望はまったく見出せません。スペインの経済もようやく上向いてきたと言われていますが、失業率は20%以上と非常に高いままです。北ヨーロッパも「経済低迷地帯化」しています。フィンランドは南ヨーロッパと匹敵するくらい不景気ですし、デンマークとオランダの経済も最悪な状態です。このほどフランスの地域圏議会選挙では、極右政党が躍進しました。背景には移民、難民、テロなどの問題が複雑に入り組んでいますが、経済問題も大きな背景の一つであるという点に注意を払うべきです。、、私にはヨーロッパ全体の低迷が、欧州統合という壮大な計画の正当性を浸食しつつあるように映ります。ヨーロッパの政治家たちが正しい政策を実行しない限り、この状況から脱することはできないでしょう。

皆さんも、こうした話をよく耳にするでしょう。しかし、これは現実をまったく理解していない意見なので、注意すべきです。まず、人民元が主要通貨入りしたからといって、中国の実体経済にはほとんど影響はありません。さらに、アメリカが超大国になったのはその経済自体が巨大化したからで、ドルが基軸通貨になったことによるものではないのです。そもそも、人民元が主要通貨入りしたからといって、人々は人民元を現金で持ちたいと思うか、また人民元建ての債券を持ちたいと思うか。まったくそんなことはないでしょう。現在の中国は、かつての日本よりもさらに極端な投資バブルの状況にあり、それが弾ける寸前のところまできているのです。企業や地方自治体は、返済能力を大きく超える債務を抱えています。これが破裂すれば、日本で起きたバブル崩壊よりはるかにひどい状況になるでしょう。そうなれば、「隣国」である日本への悪影響も甚大なものになるのです。
では、その日本経済はどうか。私は昨年、安倍晋三首相と直接会って、アドバイスをする機会がありました。その場では、安倍首相に、消費税の増税を中止するようにアドバイスしました。実際、安倍首相がその後に増税中止の決断をしたので、ホッとしたものです。しかし、日本ではいま再び消費増税の動きが出てきています。これは絶対にやってはいけないことで、危ない兆候だと危惧しています。なぜかといえば、日本は日本銀行が金融緩和をすることで、円安になり、株価が上がり、ようやく経済が上向きになろうとしているところです。円安の効果が実体経済に現れてくるには、時間がかかる。その効果が出てくるのを待たずに、むしろ消費増税で水を差すというのはもってのほかです。アベノミクスが成功する確率は現時点では50%ですが、消費増税をすればこの成功確率はさらにグッと下がってしまうでしょう。
見てきたように、ヨーロッパ、中国、日本はもがき苦しんでいます。一方、そうした各国と比べて、好調に見えるのがアメリカ経済です。失業率は下がってきているし、賃金の伸びが回復しつつある。こうした状況を受けて、利上げ早期容認論者の人々が、「アメリカ経済は回復したので、利上げをしても大丈夫」と主張しているわけです。しかし、アメリカの好調さは、相対的に良く見えているにすぎません。あくまで沈む各国に比べて相対的に、なのだという点をおさえておかなければいけません。、、。アメリカも中国も、ヨーロッパも日本も、正しい政策が実行されなければ、さらに状況が悪化していきます。われわれはそんなリスクに直面しているのです。2016年は、世界中がもがき苦しむ年になりそうです。参照記事