寂しさを癒し、温もりを与えてくれる、愛犬や愛猫の存在——。独居が増えている今「ペットは家族同然で、その存在なしには生活が成り立たない」と考える人は少なくない。
そうしたなかで、未解決のままの一つの問題がある。独居でペットを飼っている人が、高齢になったときのことだ。「自分に何かあったとき、世話を頼める人がいなかったら、この子はどうなるのだろう?」
そこに一石を投じているのが、神奈川県横須賀市にある社会福祉法人心の会の特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」だ。ここでは、犬または猫と共に入居することが可能だという。
こ の先進的な取り組みが、特別養護老人ホームで可能になっていることが注目されている。「特別養護老人ホーム」とは、社会福祉法人や地方自治体が運営する公 的施設。略して「特養」と呼ばれている。主に民間企業が運営する「有料老人ホーム」と比べて費用が安いため、入居待ちの人がとても多い。
なぜこうした取り組みが実現できているのか。その想いとは。「この取り組みが全国に広がってほしい」と語る施設長の若山三千彦さん:右 に話を聞いた。
現在暮らしているのは、犬5匹、猫10匹です(2015年10月23日現在)。私たちの法人の根本的な考えは、「あきらめない福祉」です。例えば、旅行や外出、好きなものを食べること、趣味の活動。朝ゆっくり寝ることや夜更かし。そして、ペットを飼うこともあきらめないといけないんです。
それらを変えていきたいという想いがあります。高齢になっても普通の人と同じように人生を楽しんでいただきたい。福祉は本来、生活を支える場なので、生きるのに最低限必要なケアだけではいけないはずなんです。ペットだけが特別なのではなく「生活の質をいかにして上げていくか」を大切にしてきました。入居者様にとって、動物たちの存在は癒しになっています。認知症の症状の改善や進行の防止、身体能力の向上、健康増進にもつながっています。非常に大きな効果がありました。これは予想以上でしたね。日本のペット問題の根本解決の一つは、高齢者とペットの問題を何とかすることだという話もあります。ペットを飼っている高齢者がとても多いものですから。現時点では自宅で飼っていないけれど、もう一度犬猫と暮らしたい、と考えて入居する人もたくさんいらっしゃいます。そのため、うちには保健所から引き取った犬猫もいるんですよ。特養こそ一般人が使うところですから、多種多様なサービスに力を入れた、楽しい生活を送れる特養がたくさんできてほしいです。選択肢がもっと増えるといいなと思います。
こんな素晴らしい施設長さんがいるとは感激ですね。どうかこれが普通になってほしいものです。人間と同じくペットも歳をとります。歳をとったペットの行き場が保健所ではあまりに切ない。同じ発想を地方自治体にもしてほしい。田舎で暮らしたいひとの多くは、周りに迷惑かけずに動物と気兼ねなく生活したいと思っています。問題はやはり飼い主が飼えなくなったときです。我が家にも高齢な義理の母が飼う犬がいます。朝晩2回の散歩は、運動を兼ねて義理の母の日課。施設の方にもこの楽しみを味わってもらいたい。いつまでも新鮮な慈愛Affectionloveの気持ちを持ち続け、それで元気に暮らせるなら、こんないいことはないでしょう。老後施設だけでなく、福祉行政や政治にも大事なことですが、まだ特殊なケースとしてニュースになる状況では、日本はまだまだそのレベルに達していないようだ。ある国では、外出が難しい老人が飼う小型犬の散歩は、近所の子供の貴重なお小遣いのチャンスになっている。その子が優しい人間に成長するのは間違いないだろう。
環境が変わって途惑う入居のご老人方も、動物がいるだけで笑顔がふえて、心も落ち着かれると思います。