
ここに最近のメキシコの統計がある。わかりやすく日本語に直した表は、メキシコ人が何の社会問題に関心を持っているかを表している。
おそらくどこの国でも今は経済問題や失業が上位に来ると思うが、メキシコでは組織犯罪がトップである。行方不明者を含めれば、年間1万人以上が麻薬犯罪の犠牲者になっている現実、公表されている統計からは、最近6年間の一般人、軍人、警官の犠牲者は4万5千人以上と言われているが、最近の調査では 約二倍の死亡者との報告もある。参照記事
メキシコの犯罪には多くの特徴がある。麻薬の消費地米国は、同時に武器の供給地でもあること。ストリートギャングが麻薬組織に参入し、犯罪者が若年化し、未成年の犯罪が増加している。メキシコ海軍も参加する取り締まりに反し、発生件数、被害者、摘発麻薬量は増加傾向にある。殺人は凶悪化し、住民に恐怖を与えるために、より残酷化している。組織による汚職は政治家や企業にまで広範囲に浸透している。この異常な事態で、国民の中には「死刑復活」を望む声が多く、デモも行われている。
「死刑廃止」の方には理解できないだろうが、メキシコの死刑復活の声の背景には一向に減らない残酷な無差別殺人と、逮捕して裁判にかけても犯罪者がいずれ社会に戻って報復殺人をしたりする現実があり、報復を恐れて証言しない風潮が蔓延している。また、犯罪者は、生き抜くためには先に敵を殺すという考えから、無制限に殺人を繰り返し、組織は殺し屋を雇う。最近は14歳で殺し屋になり、7~8人を殺害した少年もいたが、刑の軽さを認識したうえでの犯行で、組織も「対した罪にならない」と青少年を積極的に殺し屋にリクルートしている。
軍も警察も、殺し屋を逮捕してもいずれ社会に戻るのを嫌って犯人を意識的に殺害し、まき沿いで多くの市民も犠牲になっている。結局この国での「死刑廃止」は何の意味もなく、むしろ殺し合いの増加を招き、生命尊重が被害者の増加を招くという矛盾を生んでいる。このような社会では「社会の正当防衛」としての「死刑」も必要ではないだろうか?数百人殺したと豪語したギャングもいたが、こんな犯罪者もいずれ社会に戻る。犯罪者にとって「死刑廃止」が都合のいいものでしかないという現実を理解し、画一的に「死刑廃止」を押し付けるのではなく、それぞれの社会が持っている現実や犯罪処罰に対する社会通念や要求を尊重すべきで、とくにメキシコや南米のように、犯罪者が制度を悪用し、犯罪がはびこってしまってからでは根絶が不可能になる。メキシコはすでに、「死刑復活」や「処罰の厳格化」を叫べば翌日には暗殺されるような状況で、悪が力で勝っている。現状では死刑復活の望みはない。なぜならどの裁判長も報復を恐れて死刑言い渡しをしないからで、メキシコでの廃止にはこのような危険にさらされた司法からの要望もあったのだ。つまり、死刑廃止の採用は、犯罪がはびこってしまってからでは死刑制度復活の可能性さえも死滅させてしまう。現実にメキシコでは、犯罪撲滅を唱えた無数の政治家、官僚、市長など行政担当者が暗殺されている。どんな社会でも、悪のほうが行動はアクティブで巧妙である。
冤罪の問題もあるが、それは死刑制度の運用上の問題で、現実とは別問題だろう。千に一つの想像よりも、毎日の100の命を守るほうが大事なことだ。偶発的な殺人者と、何百人も殺害した殺人常習者の扱いが同じで、いずれ社会復帰することのほうが異常である。過去ブログ:メキシコ 12歳>14歳のヒットマン(殺し屋) 12月2日逮捕