2018年9月25日:最大の出資国が日本と米国(ともに出資比率15.7%を占める)であるアジア開発銀行(ADB)はこのほど、フィリピンに対して新たに6カ年の「国別連携戦略(CPS)」を承認し、うち最初の4年間(2018~21年)に総額78億米ドル(約8,750億円)の融資を決めた。新たなCPSでは、◇インフラ整備および長期投資の加速◇ビサヤ地方、ミンダナオ地方の開発振興◇人的投資——の3分野を優先する。写真はフィリピンの雑貨屋サリサリストアSariSari Store
ADBのスティーブン・グロフ副総裁はCPSの目標について、「貧困層をはじめとするフィリピン国民の生活水準を向上させ、教育、就労、収入機会の拡大を通じて経済成長の恩恵を受けられるようにする」と説明した。
2022年の貧困率を14%まで低下させる政府目標の達成に向け、2018~21年に毎年20億米ドル近くを融資する。「毎年20億米ドル」は、既定のADB融資の2倍に相当。4年間では78億米ドルとなり、過去最大規模の支援となる。協調融資も積極的に検討する。既定のADB融資と合わせて、2018~21年のADB融資の47%は運輸セクター開発が占める。主な事業には、◇ブラカン州マロロス—パンパンガ州クラーク国際空港間鉄道◇マニラ首都圏の南北通勤鉄道◇首都圏の複数の橋梁◇カビテ州—バターン州間のマニラ・ベイブリッジ◇首都圏の幹線道路エピファニオ・デロスサントス通り(エドサ通り)沿いの緑地建設——が含まれる。*ADBへの対抗上中国は2016年にAIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立したが、協調融資は可能となっている。参照記事 過去ブログ:2018年8月すでに中国に取り込まれたフィリピンの歯ぎしりが聞こえる
、、、ニュースでは、口先だけの中国の経済支援にいらだつフィリピンが登場するが、今回のADBの決定は相当以前から検討されていたはずで、中国は当然それを知った上で2016年10月に大風呂敷を広げたに過ぎないのだろうと想像する。フィリピンの期待は対中貿易の活性化で、このADBの決定で、元々中国のする気の無い全ての経済支援は、結局ADBが実行されるまで御預け状態となるのでは? しかし、中国がADBに対し協調融資に乗り出す可能性もあり、開発を急ぎたいフィリピンと、慎重、かつ狡猾な中国の姿が見えてくる。
今後の時間の経過のなかで、中国は南シナ海、ルソン島中部の西方沖約230キロの海上にあるスカボロー礁Scarborough Reef(フィリピン主張の経済水域EEZス内にある)での基地化に拍車をかけ、社交辞令で中国へ歓迎と恭順の態度を取ったフィリピンは黙って見ているしかないだろうが、どちらが外交巧者なのかは、まだ見えてこない。しかし国際的には、フィリピン政府は中国に譲歩しすぎだと指摘されている。ドゥテルテ政権の任期は2022年まで。 過去ブログ:2018年4月南シナ海で完成に近づく中国の環礁空母化とフィリピン
米国防総省は、連邦議会の年次報告書で、中国政府と中国軍は「海上浮遊型原子力発電所」を開発中で、南シナ海での島しょ部に電力供給する計画を進めていると記し、フィリピン政府はすでに、係争地域に核兵器が配備される可能性について懸念を表明し「憲法上、フィリピンの領域は非核地域と定められており、いかなる核兵器もフィリピンの領域に入ることを強く懸念している」と述べている。参照記事
、、、米中貿易戦争の影響で、中国の投資熱も冷え込んだともいわれる中、農業製品、化学・ゴム製品、鉱物性生産品などを主な米国向け輸出品とするフィリピンの機会拡大につながり、フィリピンの国内生産GDPを押し上げているとも分析されている。これがフィリピンにとって想定内だったかどうかは別にして、とにかく経済の先読みが難しい時代になったと筆者は感じている。もっとも、国際紛争はさらに複雑怪奇だが、、。 参照記事